第六章
――沈黙が訪れる。
襲ってくるはずの痛みがまだ来ない。ラディスが不審に思ってそっと瞼を開くと、少女はハンマーを振り上げた姿勢のまま静止していた。ふと風に吹かれ、それまで前髪に覆い隠されていた瞳がちらちらと見え隠れ。その瞳は。
何故かとても不思議そうに。なぁに? とでも言いたげに此方を見つめて。
もしかして――
「……?」
少女の手にしていたハンマーが粒子となり、消えた。かと思うと少女は紺碧の空に浮かぶ満月を見上げ、何を思ったのかその場から逃げだしたのだ。
「ラディス! そいつ、」
「分かってるさ!」
が、すぐには少女を追いかけなかった。立ち上がったラディスが真っ先に向かった先にいたのは、マルス。きょとんとする彼の腕を掴み、ぐいと引いて。
「一緒に来てくれ」
そのまま、駆け出す。
「は、はあ!?」
今度もその意図が掴めない。追いかけるだけなら一人で十分なはずなのに。
そもそも、どうして僕なんだよ! さっき、リンクに突然攻撃を仕掛けた意味もよく分からなかったし……様々な疑問がマルスの中で渦を巻く。
ラディスはただ、黙って走っていた。……
「リンク、大丈夫か?」
あの死神のことは二人に任せよう。マリオは駆け寄って声をかける。
「……おーい」
マリオはぎょっとした。カービィと顔を見合わせて。やれやれと溜め息。
「こりゃ本当にパフェ奢ってもらわなきゃだねえ」