第六章
「ッ!?」
突如として現実に引き戻される。マルスが頬を摘まんで引っ張ったからだ。無視をするな、とでも言いたげな目でひと睨み。ラディスは頬を摩り、視線を返す。
「……なあ、マルス」
ぽつりとそう呼ばれてマルスはきょとんとした。
「君は、あの……死神、の子。どう思う?」
変わった質問だった。
「どう思う、って」
マルスは少し答えに迷っていたが、やがて答えた。
「……もう少し歪で、恐ろしいものだと思っていた」
その視線は窓の外へ送られる。沢山の宝石が散りばめられた紺碧の空だった。
「僕には、ただの女の子にしか見えない」
「……じゃあ」
「でも。だからといって見逃せない。あの能力はあまりにも異様だ」
言葉を遮るようにして言い放たれた正論は、再びラディスの口を閉ざした。
「詠唱も無しにそこまでのことが出来るとは思えない。魔方陣が見当たらないどころか、彼女は自らの影からその攻撃を放っていた。現在流通している魔法や魔術とは徹底して異なる、だとすればそれは正体を疑う以前の問題だ」
――言い返せなかった。彼の意見があまりにも的を射たものだったからだ。
そうして黙り込んでしまったラディスを、通話を終えたリンクが横目にじっと見つめていた。何となく、分かる。彼が、何を考えているのか。
リンクは心の中で思った。
――ラディス。
貴方は、優しすぎる。