第六章
「……?」
少女の口が小さく動いた。
すると、どうだろう。足下の影が輪っかになって下から上へと浮かび上がり体を通し、そして消えてしまったのだ。周辺には黒い粒子を残して。
「逃げたのか……?」
その動作はあの時ステージの上で見たのと全く同じだった。終始無言のまま、一瞬にして消え去ってしまった少女。五人は構えた姿勢のまま暫し呆気にとられて。
「んうー!」
「あっ忘れてた」
おいおい。子供が苦しそうにもがくのでカービィは急いで傍らに膝を付いて抱き起こし、あくまで痛がらないようにそっと、ガムテープを剥がした。
「っぷはあ!」
どうやら怪我はしてないようだ。マルスが目隠しを取ってやると、子供はぱっちりと目を開けたが日光の眩しさに一度瞼をぎゅっと瞑って。
「男たちは何をするつもりだったのでしょうか」
「実際、強力な魔力を秘めた子供を売買するという話はそう少なくないんだ。実験台はもちろん、時には自分の扱う魔術の媒体にしようっていう輩もいる」
それを聞いてラディスはぞっとした。
放っておけない話だと思う。あれはもう何年も前の話になるが、それでも忘れたことはなかった。あの時のクレシスのように、それもこんなにも幼い子供が……
「バトレンジャーだ!」
あっ。
「凄い! 助けてくれたんだ!」
「そ、そうですわよー」
一転してぎこちない笑みを浮かべながら片言のカービィ。
「かっこいいなぁ……!」
笑顔が眩しい。
「そういえば俺たち、ショーをほっぽり出してきたんだったな」
「誰のせいですかねぇ?」
「し、収穫はあったじゃないか」
苦笑いを浮かべる。とはいえこのパターン。
嫌な予感しかしない。