第六章
すると、どうだろう。
今まで少女の影から伸びていた黒い触手のようなものはみるみる内に影の中へと沈んでいき、姿を消したのだ。解放された男は地面に放り出され、硬直していた相方の肩を叩いてトラックへ。少女は、やはりただ黙ったままその場から動かない。
「ば、化け物めっ!」
そう言い捨てて、男はそれぞれトラックに乗り込んだ。手荒な運転で酷い音を響かせながら、砂煙を上げ、発進させる。少女は追いかけようとはしなかった。
「んぅ……ふ、う……っ」
地面に放り出された子供が苦しそうに呻いている。それに気付いた少女はゆっくりと顔をそちらに向け、足を踏み出した。まさか、と嫌な予感が過る。
「させるかよ!」
真っ先に飛び出していったのはマリオだった。いくら少女の姿だろうと、魔物の類いなら関係ない。続けて四人も飛び出していくと子供を守るようにして立ち塞がり、構えた。少女はぴたりと足を止めて、しかし相変わらず口を閉ざしている。
「答えてください。誰の命令を受けてこんな真似を」
ラディスは思い返していた。
あの時、ダークリンクは二足歩行の魔物を従えていた。いや、それにしては少し様子がおかしかったが、ともかく。あれが、或いは進化した姿だったとしたら。
「へえ、なかなか仕付けられてるじゃないか」
リンクの問いにも少女は答えなかった。
「それとも。言葉を教えてもらってないのかなぁ?」
カービィがからかう。
その時、ラディスは少女に視線を向けられた気がした。両目が前髪に覆われている為、こればかりは確証がなかったが。風に吹かれ、少女の髪が揺れる。