第六章
このままじゃ少女が危ない。いや、あの少女が本当に今回依頼されたターゲットだとすれば危ないのは男たちか? どちらにせよ、これ以上ここで黙ったまま見張っているわけには。まずは遠距離攻撃で二人の距離を離すか。
ラディスは密かに右手に青い電気を走らせた。男は少女とある程度の距離が縮まるとにやりと口角を吊り上げて。未だ動かないことをいいことに、スタンガンの電圧を最大まで上げる。その時、聞こえてきた音に少女はようやく顔を上げた。
「うわああぁあッ!」
男の叫び声が廃墟の町に響き渡ったのはそれから間もなくのことだった。
「なっ……」
小さく声を洩らす。五人は目を見張った。
――少女の足下の影から幾つもの黒い触手のようなものが伸び、男を捕まえて空中に持ち上げたのだ。まだ、数本のそれが少女の傍らで不気味に蠢いている。
「大当たりですよ、ラディス……」
リンクは、ははっと乾いた笑みをこぼしたが、しかし誰も動けずにいた。
ああ、これは。見覚えがある。頭の中で鮮明に蘇る、黒い衣服と狂気に身を包んだ悪の剣士。まさか……今回の依頼もあいつが絡んでいるのか?
「化け物かよっ!」
もう一人の男は預けられていた子供を突き放し、懐から拳銃を取り出すと迷わず少女目掛けて発砲した。しかし、銃弾はその幾つか伸びていた黒い触手のようなものに弾かれ、最終的には足下の影から伸びた黒い壁に阻まれて。
「ひ……」
遂に銃弾は切れてしまう。男は小さく悲鳴を上げて拳銃を落とした。黒い壁はゆっくりと影の中に沈んでいき、その姿を消して。少女は静かに腕を横に払う。