第六章
「ラディス?」
「っあの子だよ! さっき、俺が追いかけてたのは!」
マルスは怪訝そうに少女を見つめる。
「うわ、髪の毛なっが。呪われてんじゃないの」
「それにしては霊気を感じませんね」
「生き霊という可能性も……」
「評判のいい霊媒師でも呼ぼうか?」
「そ、揃いも揃って物騒なこと言わないでくれ……っ」
ラディスは肩を震わせた。
「どうしたよ嬢ちゃん。もしかして坊主のダチか?」
少女は応えない。ただその場に立ち尽くし、黙ったままじっと見つめている。
「おい聞いて」
「そう突っかかるなって」
その様子に苛立ちを感じた男を、相方の男が肘で軽く小突く。捕らえた子供は預けておいて、相方の男が一歩前に出た。まるで人の良さそうな笑みを浮かべて、
「……俺たち、別に酷いことをしてるわけじゃないんだぜ?」
一歩、また一歩と歩み寄りながら。
「この子は病気なんだよ。だから、治してあげようと思ってね」
――何食わぬ顔で、嘘をつく。
マルスの眉がぴくりと動いた。嘘を誰よりも嫌う彼にとって、あの男の言動全てが許せなかったのだろう。拳に力が入るのが見えた。ラディスは口をつぐむ。
「……そう、そうだよ! こうでもしなきゃ危なっかしくてなぁ」
もう一人の男が続けたが、やはり少女は黙ったままだ。
「そうだ。嬢ちゃん、よかったらついてきてくれないか?」
その男は片手をそっと後ろに回すと、上着の袖に隠しておいたスタンガンを手のひらに落とした。電源が入り、ぱちぱちと小さく音を鳴らして。
「この子もその方が安心すると思うし。……なぁ?」