第六章
「……?」
ちょいちょい、と手招き。
少女は、どうやら自分に向けてこの動作を行っているらしい。まさか、お前もこっちの世界に来いって? あはは。……いや、冗談抜きで笑えないんだが。
「エネルギー補充完了!」
マリオはばっと左手を前に突き出す。
次の瞬間だった。少女はふっとその場から消えてしまうと、客席の一番後ろまでワープしたのだ。ラディスははっと目を開く。確かに一瞬だったが、彼女の足下の影が輪っかになって下から上へと浮かび上がり体を通し、それでワープしたような。
「影……」
――そうだ。何でも、影を自在に変化させて操るらしい。
「まさかっ」
だとしたらその可能性は高い。
少女はじっと此方を見つめていたが、不意に背中を向けるとぱたぱたと駆け出した。まるで、ついてこいとでも言っているかのようだ。ラディスは迷いなくステージから飛び下りる。その行動には客席だけでなくスタッフも驚き、ざわついた。
「なっ、ラディ……イエロー!?」
そう呼んだ後でマルスは盛大な溜め息。
「……手間のかかるっ!」
「おぉい!?」
ラディスは先程の少女を追いかけるべく、高く跳躍しては客席を跨いで走っていってしまった。マルスは同じようにステージから飛び下りると、客席を縫うようにして後を追いかけて。残された三人は困ったように視線を交わす。
「……やべぇ、エネルギー貰いすぎてファイアキラー壊れた!」
「えーまじー? これじゃ戦えなくなくなーい?」
「つまり緊急事態ですね! 一旦この場から手を引きましょう!」
アドリブ。何とも苦しい会話である。
「ま、待てバトレンジャー!」
「きっ今日はこの辺にしといてやる!」
「次はこうはいかないんだからね!」
「勘違いしないでください! これは戦略的撤退です!」
まるで悪役の負け台詞。
ただ一人、ステージに取り残されたクロガネは。ぽかんと小さく口を開けたまま、まだ暫くその場に立ち尽くしていた。