第六章
「……あれ」
いない。ただの一瞬目を離しただけだったのに、そこにあの少女の姿はなかったのだ。やっぱりあの女の子……いやいや! それだけは勘弁してくれ!
「ちょっと」
カービィに小突かれ、ラディスはようやく台詞を促されているのだと気付く。
「え、あっ……か、咬ませ犬の本気! 見せてやる!」
二人が揃って駆け出すと、クロガネはステッキの柄で床をとんと叩いた。すると黒い魔方陣が足下に浮かび上がり、強風が巻き起こって。先程のマルスやリンクと同様に自らを腕で庇い、その場に踏みとどまる。
ま、この風も実際は白魔法によるもので受けたところで衣装や髪が靡く程度、そんなに強いものでもないのだが。これも演出の為、深く突っ込んではいけない。
「ふははは! どうした、バトレンジャー!」
クロガネは如何にも悪役らしく、高笑い。余裕を見せつける。
「っきゃああ!」
「うああやっぱり駄目! やられた!」
間もなく二人は後方に吹き飛ばされ、ステージにそれぞれ倒れ込んだ。いよいよクライマックス。いつの間にか、マリオの傍らには赤を基調に白のラインが入った大砲が用意されている。これがレッドの専用武器なのだ。
「むむっ、そいつは噂の!」
「気付いたところでもう遅いぜ!」
「良い子の皆ぁー! 皆の熱い応援をレッドのファイアキラーのエネルギーに変えて、クロガネをやっつけよう! せーのっ、頑張ってえー!」
司会のお姉さんに続けて子供たち、
「頑張ってえー!」
ああ、この一体感。子供って本当素直で可愛いな……
ラディスの目は再び客席へ。
「ッ!?」
うぎゃー! いたー!?
いつの間にか少女はステージの目の前に来ていた。思わず声を上げそうになったが、不思議と誰も突っ込まない。ひええ、やっぱ誰も見えてないのかな……