第六章
「……死神」
ラディスは思わず声に洩らした。
「そうだ。何でも、影を自在に変化させて操るらしい」
影。となると明るい所に呼び出して戦わなくては此方が必然的に不利になってしまうというわけか。どう立ち回るか。その死神とやらを拘束した後の扱いは。……
「引き受けるのか?」
思わず考えに耽ってしまった。え、と視線を上げる。
「何か問題があるのか?」
「いや、……ただ少し面倒だぞ」
マスターはキーボードを打つ手を止めると、依頼届のある部分を指で叩いた。
普段は空白の、注意事項の欄。そこにこう書かれていたのだ。
――絶対に正体を明かさず任務を遂行してくれ、と。
「依頼人の住んでいるラグナの町は古くから白魔術を扱っていてな」
マスターは肘を立てて両手を組んだところでその上に軽く顎を乗せて続けた。
「子供も、幼い頃から親に厳しく教えられるのだそうだ。それだけに強力な魔力を秘めた術師も少なくはなく、最悪の事態、例えば人攫いなどを避ける為に外部との接触は基本的に禁じられているらしい」
「……じゃあ今回の依頼の件だって問題ないんじゃ」
小さく息を吐き出して、マスター。
「それさえよく思わない連中が中にはいるというわけだ」
思っていた以上に、ラグナの町の住民の外部に対する目は厳しいらしい。
――以前、マルスから話を聞かされた。もし、過去に大きな事件があったのだとしたら同じように人を信用できなくなっているのかもしれない。裏切りの代償とは、そういうことなのだ。簡単に拭えるような傷ではない。
「どうする?」
ラディスはゆっくりと口を開いた。