第五章
「――あぐッ!」
次の瞬間、壁の向こう側で電気の弾ける音がしたかと思うとそれまで黙っていたクレシスが声を上げた。ロイははっと目を開く。
「あーあ、やっぱそうなっちゃうかー」
そう言って立ち上がったその青年はぐっと体を伸ばした。
「ま、そうなるよう仕向けたのは僕たちなんだけどねぇ?」
恐る恐る顔を上げて見つめる。口元に笑みを浮かばせるカービィに、ロイはまさか、と呟いた。カービィは部屋の扉へと向かって。
「何せ、相手は一国の王子様……」
ドアノブに触れては立ち止まり、それから振り返る。
「そうでもしなきゃ理由つかないっしょ。……正当防衛ってヤツは」
――ぎくっとした。
廊下に飛び出す彼を暫し見つめた後で、ロイは立ち上がる。彼の考えは、間違いなく狂気に満たされていた。あいつ、マルスを――!
「くっ」
扉が完全に閉まる前に飛び出したが、そこに彼らの姿は見当たらない。一階に降りたか……ロイが駆け出そうとしたその時、隣の部屋からクレシスが出てきた。
「っお前」
クレシスは己の左腕を庇い、ふらふらとしていた。この症状、恐らくあの静電気誘発小型金属パネルを使ったのだろう。あれはその名の通り、体内に溜まった電気をパネルを通すことで放出させる効果がある。それによるダメージは絶大だ。
「俺のことは、いい」
クレシスは壁に背を向けて寄りかかった。
「でも、」
「いいから。行ってやれ」
ロイは怪訝そうに眉を寄せる。
「……泣かせたままでいいのかよ」