第五章
ラディスはまるで寝ぼけたような目でクレシスを見つめていたが、やがてにんまりと笑った。「ははっ、そっかあ」と子供のようにテーブルの上に体を乗り出し、ぐっと腕を伸ばして。左腕を枕に、右手を伸ばしてクレシスの頬をつつく。
「このぉ、ツンデレめー」
「……前から思ってたがそのツンデレってのは何だよ」
クレシスは鬱陶しそうにその手を払う。
はあ、とロイは溜め息を吐き出した。そのやり取りをくだらない、見ていられないと思ったのだろう。立ち去ろうと背を向けるロイに、クレシスは口を開いた。
「……意地を張れば褒めそやす。我が儘を言えば甘やかす」
ロイははっと立ち止まる。
「それって本当にダチか?」
――ぎくっとした。その疑問は決して、自分に向けられたものではないはずなのに。突き刺さった視線が胸まで届いて貫くようで、ずきんと痛む。
「嫌われたくないだけだろ」
心臓が胸を叩く。それが頭の中にまで響いてくるかのようで。
「嘘をついて自分を偽ってる。……傷付けてんだよ」
クレシスは立ち尽くすロイの背中を見つめる。
「自分も、相手も」
「違うッ!」
ロイは振り返り、睨みつけた。
「関係ないだろ! 俺のことも……っマルスのことだって!」
そう吐き捨てて足早にその場を離れる。ばたん、と大きな音を立てて扉が閉まれば、ラディスはのっそりと体を起こして頬杖を付き、クレシスを見つめて。
「なぁにやってんだよー……」
「知るかよ。別に、あいつに向けて言ったんじゃあない」
カラン、とグラスの中で氷が音を立てる。
「……心当たりでもあるんだろ」