第五章
……そうだよな?
言い終えて何故か表情に影を落とすロイを横目に、クレシスはグラスに残った酒をぐいと飲み干した。ったく。どいつもこいつも私情を戦場に持ち込みやがって。
「……なあ」
「本当にすみませんっしたあ!」
突然、ラディスが声を上げたかと思うと勢いよく頭を下げて額をテーブルにごつんとぶつけた。その不意打ちにクレシスもロイもびくっと肩を跳ねさせて。
「うう……っく。俺ぇ……なにやっても……っ駄目、だし……」
見れば、彼の片手には缶ビールが握られていた。ロイが顔を俯かせている間に新たに開けたものを飲んでいたらしい。酒豪、というか。今日は呑まれてこれから先を乗り切ろうというわけか。いや、そういう考えは現在の彼にはたしてあるのだろうか。
「ああぁー……なんでだよぉ……」
しかもこいつ、飲むとネガティブになるのか。
何故だかこいつが哀れに思えてくる。実際そうなんだけど。ロイだって、本当は分かっているのだ。マルスが、ラディスを嫌っているわけではないということ。
ただ、彼が気にしているのは――
「お前は他人を見下げるような奴じゃないからな」
クレシスはラディスの手から缶ビールを奪い取ると、それを空になった自分のグラスに注いだ。一滴残らず、最後まで。そのグラスを手にくくっと笑って、
「何しても誰より劣って見えんだよ」
ラディスはどうも腑に落ちない様子で、空っぽになってしまったビールの缶を頬杖を付いて見つめていた。すると、クレシスはグラスを口に近付けて。
「……でもな。そういうとこ、すげえ尊敬してる」
ぱっと顔色を変えて。ラディスは顔を向けた。
「お前が?……なんで?」
「さあ……」
ごくん、とビールを飲み込んだ音。クレシスはグラスをテーブルに置く。
「俺より背が高いから。かもな」