第五章
エントランス側の階段から降りて一階の廊下に入ると、奥の部屋から微かに明かりが漏れているのが見えた。あれは食堂じゃない、マスターの部屋だ。
夜中の十二時をとっくに過ぎているというのに……やれやれ、本来のリーダーさんよりも働いてるんじゃないか。はは、と小さく苦笑い。ロイはそのまま食堂へ。
食堂に入ると、ちらほらとだが明かりがまだ点いていた。誰かいるのだろうか、と見渡すよりも早くその姿を捉えて。ロイはゆっくりと歩み寄る。
「……まだ起きてたのか」
その男、グラスを片手ににやりと笑って。
「よい子はおねんねの時間だぜ?」
――クレシスだった。ただ違ったのは、普段つんとして近寄りがたい顔つきをしてるはずの彼が、今日は頬をほんのり赤く色づかせているという点である。
直後、ある匂いがすればロイは悟る。子供には早すぎるな、と。
「……特殊部隊様が、飲んだくれかよ」
ロイは呆れたように言い放った。彼がその言葉を向けたのは無論クレシスではない。同じ席の向かい側、周辺に空っぽになったビールの缶を転がし、テーブルにぐったりと伏せて既に酔い潰れた様子のこの男。……リーダーが聞いて呆れるな。
「だってよ、ラディス」
「んんう……」
クレシスがくすっと笑って肩を揺すると、ラディスはぱちっと目を覚ました。
「ふあっ!? へ、ごめんなさい!」
……呆れて物も言えなかった。こんな奴がリーダーかよ、と改めて。
「それ、やけ酒?」
「……あー」
厄介なところを見られてしまったと思うだけの意思はあるらしい。ラディスはロイの姿を捉えると、苦笑混じりに目を逸らした。クレシスが笑って追い討ち。
「そっ。新入りの王子様がいけ好かなくてなぁ」
「く、クレシス」
「いいんだよ。こいつ、従者っぽいし」
ロイはむっとした。
「そんなんじゃねえよ! 俺とマルスはそうじゃなくてっ」
――そうじゃなくて?
「友達、だし……」