第五章



それから一週間、マルスによる嫌がらせは留まることを知らなかった。

「うわっ!?」

夜中の睡眠妨害がなかったかと思えば部屋から廊下に出た直後、ワックスを塗りたくられていたが為に足を滑らせて転倒。トイレで用を足して出てくれば扉に仕掛けられていたバケツがひっくり返って大量の水を頭から被り、びしょ濡れに。

履き替えようとしたブーツには、まさか画鋲なんてものは入っていないが靴底に小石がたくさん入っていたり、食堂を歩いていればすれ違った際に足を引っ掛けられてこれまた派手に転倒。料理の中にはもちろん、激辛の何か。

そして、忘れた頃に睡眠妨害。依頼届をすり替えたり、無線での通信の際にも嘘の情報を教えて混乱させたりとめちゃくちゃ。それも、誰かが見張ってない時に限って仕掛けてくるのだからたまらない……犯人はもちろんマルスだ、しかし。

「なんで言わないのさ!」

ラディスはマスターへの報告を頑なに拒んでいた。

「彼だって、まだ若いんだ。別に殺されそうって程でもないし」
「っ……分かったよ。もう」

そう説得すると、カービィはふいと顔を背けて足早に食堂を出ていった。

「ユウも。気にしないでくれ」

マスターに報告をすれば何らかの注意を払ってくれるのは確かだ。それだけでも、他のメンバーの気が安らぐかもしれない。が、これはチームの問題だ。

「……ラディス」

分かっている。だけど。

「彼の気持ちも少しは考えてやれ」

拗れていくのが目に見えるようで辛い。

「……、」

毎日、少しずつ元気がなくなっていく。そう言い残してユウが席を離れれば、ラディスは表情に影を落として。マルスは離れた席から頬杖を付いて見つめる。

「こんなもんかな」

――間もなく、食堂の扉が音を立てて閉まった。
 
 
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