第五章



「ちょ、おま、バカやめろ!」
「いいじゃんいいじゃん。お仲間同士、たまにはこういう交流も」
「変態かてめえ!」

……浴場から楽しそうな声が聞こえる。

一足先に脱衣所に出てきたマルスは、タオルで髪を拭きながらもぼうっと別のことを考えていた。ぽたり、水滴が滴る。マルスはその手をふと止めて。

「ラディスこいつ何とかしろ!」
「いいじゃないか。交流を深めるのは大切だろ?」
「というわけでー」
「どういうわけだ!」

彼は、いい人なのだろう。

頭では分かってる。……あの時、僕の頭を撫でていた彼の手には確かに温もりがあった。いつか、幼かった頃を思い出す。……甘えたくなる。

だけどそれでは駄目だ。人間という生き物は皮を被って構成される。僕だってそれは同じ……だから簡単に信用なんか寄越したりしたら駄目なんだ。


思い出せ。もう二度と繰り返したくないと胸に誓うのなら。


マルスは体に付着した水滴を手早く拭ってしまうと、持ってきていた寝巻きに着替えた。それから、自分が元々着ていた服の内ポケットから取り出したのは――持ち歩いて扱うには打って付けのサバイバルナイフである。

折り畳み式なので、カチッとボタンのようなものを押すことによってその刃は飛び出す。それをじっと見つめた後、マルスは浴場に目を移して。

「貴様ら! 耳に響くではないか!」
「ご心配なく魔王さん。これで暫くはおとなしいだろうよ」
「浮いてる浮いてる!」

目を細め、歩を進めた。……
 
 
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