第五章
マルスはダークリンクに視線を移す。
「……ここに来るまでに三匹。その内の一匹は他の二匹に」
きっと睨みつけて、
「何を考えているんだい。首謀者は君だろう」
ダークリンクはマルスの発言に少し顔を顰めていたが、先程同じ仲間によって喉元を食い千切られてしまったあの魔物が、己の足下でぴくんと小さく跳ねたことに気付くとおもむろに視線を下ろし、目を細めて。
「聞いて、」
赤黒い液体が飛び散った。ダークリンクがその足でまだ息があったであろう魔物の頭を踏み付けたのだ。これにはマルスも小さく口を開いたまま固まってしまって。
「――そういうことにしといてやる」
ダークリンクはにやりと笑った。
「あんたらのことだ。いずれ気付くだろうよ……」
「マルス!」
ようやく駆けつけてきたのはロイである。
ダークリンクは一歩後ろに下がって指を鳴らす。すると彼の体は一瞬にしてつま先から頭の天辺まで真っ黒に染まり、その体が揺らいだかと思うとまるで煙のように変化して――森の奥の暗闇へと吸い込まれるようにして、消えてしまった。
「……マルス?」
どくん、どくんと心臓が。波打つように鳴っている。
「マルス!」
次にロイが呼ぶとマルスは現実に引き戻された。
「どうしたんだよ」
「何でもない。……それより、任せといた魔物は」
「余裕余裕。魔王さん方ももうこの辺に同種はいないだろうってさ」
そう、と小さく声を洩らしてゆっくりと天を仰いだ彼の青い瞳が。
「任務は完了。引き上げるよ」
ここじゃない何処か遠くを見つめている気がしたのは。
「……、」
ラディスの気のせいだっただろうか。