第五章
「っ……!」
ラディスである。その光景に目を開き、呆然と立ち尽くしていたところを狙われてしまったのだ。しかし、魔物が踏み出せばはっと我に返りすぐに構えて。
「アアアァアアッ!」
叫び、此方へ向かってくる魔物にラディスは頬に小さな電気をばちばちと走らせ、目を見張っていた。何か別の、特殊な技を出してくる様子もない。だとすれば後はあの触れると厄介であろう液体に気をつけて、その体を弾くだけ――!
「ア、」
ラディスが稲妻を放とうと右手を突き出したのと、その魔物の胴体が真っ二つに分かれたのはほぼ同時だった。魔物を斬り捨てた犯人はその先で剣を手に地面に跪いて、間もなく立ち上がると刀身に付着した液体を軽く振るって払い、鞘に納める。
タイミングを見計らったかのように赤黒い液体が噴き出して、魔物はラディスの目の前でぼとっと音を立てて落ちた。それでも尚、時折ぴくんと跳ねていたが。
やがて、完全に動かなくなってしまい。
「……マルス」
ラディスがぽつりとその名を呼ぶと、マルスはすっと視線を此方に向けた。
「勘違いは困るな。別に助けたわけじゃない」
マルスは冷たくそう吐き捨てて。
「……流行ってるんだな」
「何が」
「ツンデレ」
「あのね」