第五章
「……なんだその構えは」
ダークリンクは既に呆れた顔つきでかくんと首を傾げた。
見れば、ラディスは何処ぞの拳法かのような構え方をしている。先程、叫んだのと同時に咄嗟にその構えを取ってしまったのだろう。しかしはっと我に返って、
「そこで何をしている!」
「よくあるドラマのお巡りさんかよ。空から降ってきといてよく言うぜ」
ストレートな突っ込みにぐぬぬと唸らずをえないラディス。
って、ドラマ? ラディスは遅れてきょとんとした。殺戮しか知らなかったような彼からまさかそんな言葉が出てくるなんて思うはずもなかったのである。
「質問に答えるんだ、ダークリンク。そこで何をしていた」
いや今はそんなこと考えている場合じゃない。そこにいるのは敵なのだから。
「……ボランティアってヤツ」
ダークリンクははあ、と溜め息を吐き出す。
「でも、こいつはもう駄目だな。完全にいかれちまってる」
「いかれ……?」
怪訝そうに首を傾げた次の瞬間、ダークリンクが座っている木のすぐ近くにある茂みから何やら黒い影が飛び出してきた。ラディスは構え、そして目を開く。
「姿形も持たない、か」
――双眸に赤い光が宿る、二足歩行の何か。こうもラディスの表現が曖昧なのは、そいつはまるで頭から思いきり真っ黒のペンキを被せられたかのように全身がどろどろとしていて、明確な正体が掴めなかったからである。
その生き物……いや、仮に魔物としよう。その魔物の体からはぽたぽたと黒い液体が滴り、それが地面に生えた野花や雑草に触れると、たちまちじゅうっと焼いて溶かしていた。魔物はあんぐりと開いたままの口をゆっくりと動かす。
「オ、オ……アァ……」
見ているラディスも変な汗が頬を伝って。
「ニ……オニ……オニィ、サン……」