第五章
……ん?
先に朝食を乗せたお盆を受け取ってテーブルの上に置き、椅子に腰掛けていたフォックスはふと怪訝そうな顔をした。と、向かい側の椅子に腰を下ろしたのはラディスで。フォックスは同じ席に座っているファルコの朝食を一瞥、そして疑問符。
「いただきます、と」
先に合掌をして食事に有り付くラディス。
「……、」
名前や生えている耳、尻尾からして気付いている方もいらっしゃるだろうが、自分は狐なのだ。イヌ科であれば当然、鼻は利く。そこで、不自然な匂いを感知した。
朝食のメニューの中には一切見当たらないのに、何故かつんとした匂いが漂ってきたのだ。怪しまれるであろうことを覚悟して、フォックスは身を乗り出すとラディスの受け取ったお盆に並べられた朝食の匂いを試しに嗅いでみた。
「ふ、フォックス?」
こっちの朝食の方が美味しそうに見えたのだろうか。ラディスはきょとん。
「……ちょっとごめん!」
「えっ?」
次の瞬間、何を思ったのかフォックスはお盆から味噌汁の入ったお椀を取り上げると、一口飲んでみた。ラディスとファルコが見守る中、フォックスはその味噌汁が入ったお椀をテーブルの上にそっと置いて。ふらり、と椅子から離れたが刹那。
「辛っ!」
口を押さえながら厨房へ駆け出した。
「水! 水ぅうう!」
「……それ飲まない方がいいぞ、ラディス」
「み、みたいだな」
時を同じくして離れた席で朝食を摂っていたマルスは。
「……ちっ」
不機嫌そうにフォークでミニトマトを突き刺した。