第五章
「無論、断る」
彼が承諾するものだろうと思い込んでいたのか、
「……は?」
と、マルスは眉を寄せて。
「俺は彼らとの日常を面倒だと思ったことはないし、いくら仕事だ何だと心身共に疲れ、苦痛を感じたにしても、それを誰のお陰で今まで乗り越えてきたのか」
ラディスはゆっくりと立ち上がる。
「……だから。彼らを手放した時の俺は、君が思ってるほど幸せじゃないよ」
――王子。笑う時は、こうやって笑うんです。
「っ、」
ね?……上手でしょう?
「嘘をつくな!」
唐突にそう叫ぶものだから、ラディスだけでなく辺りで様子を窺っていたメンバーも肩を小さく跳ねさせて驚いた。マルスはぐっと拳を握り締める。
「信じるもんか! そうやって優しい声で、笑って、騙しているだけだ!」
ああ、脳裏に焼き付いたあの光景が。
「自分を守りたいだけの嘘! そうだろう!?」
感情を高ぶらせる――
「君だってどうせっ」
そんなマルスの声はふと途切れた。