第五章
全く、クレシスはすぐに手や足が出る。
朝から勘弁してくれ。そう思いながらさりげなく足を引っ込めて、ラディスは魚の白身を箸で摘まむ。そうして口に運んでいると、クレシスはまた口を開いた。
「あの魔王コンビより厄介な王子様らしいぜ」
えっ。ぴたり、ラディスの箸が止まった。
「数年前、とある男の裏切りで祖国を壊滅状態に追い込まれて……それからはまるで人が変わっちまったらしい。……皮肉な話だよな」
クレシスは未だ箸が止まったままのラディスを見つめる。
「……聞いてっか?」
「え? あ、ああ聞いてるさ」
そう返して食事を再開する。
クレシスには暫く疑いの眼差しを向けられていたが、ラディスが無視してご飯を食べていると諦めたのか、ふいと顔を背けてから足を組んだ。
「……とにかく、だ。お前も気をつけろよ」
ラディスは疑問符を浮かべる。
「あのな。その王子様がわざわざ入隊するっつーことは、いよいよこの部隊も目ぇ付けられちまったってことだよ。こんなこと、言っちゃあ何だが」
ひと呼吸置いて、紡ぐ。
「――下手したら潰されるかもしんねーぞ。ここ」
大袈裟だな、クレシスは。
ラディスは大して驚かなかった。味噌汁を飲み干して、最後カップに注がれたコーヒーを口にする。ちょうどいい具合に冷めたそれはあっという間に無くなって。
「……クレシス」
お盆を手に立ち上がり、そこでラディスはくすっと笑った。
「俺がそんなことさせると思うかい?」