第四章-後編-
ガノンドロフの体は黒く燃ゆる炎に巻かれると、やがて、消えてしまった。
訪れた沈黙の中でリンクは再び、己の左手の甲に宿るトライフォースに視線を落とした。――結局、自分はただ愚かで小さな存在でしかなかった。
神は勝手ではないと。それを改めて思い知らされた時、己の未熟さを知るのだ。
「……ゼルダ」
リンクはぽつりと声を洩らす。
「笑ってください」
少年はにっこりと笑った。
皮肉ではない。運命を呪い、血の紋章だと嘆いていたかつての勇者はそこにはいないのだ。ただ無邪気な子供のように、己の生還を祝福している。
ぽろぽろと涙をこぼしながら……
「……はい」
ゼルダは笑った。嬉しそうに、肩を竦めて。
「ダークリンクは?」
「いんや見当たらねえ。あの野郎、逃げやがったな」
「そうか……」
ラディスはその場から離れると、リンクとゼルダの元へ。
「……立てますか?」
差し伸べられた手を借りて、ゼルダは立ち上がった。続けてリンクにもその手を差し伸べたが、彼は自ら立ち上がり、衣服に付着した埃を払って。
「帰りましょうか。ここは魔王の城、長居は無用です」
これはまた。先ほどとは打って変わって。
「リンク」
しかし、ラディスは普段と変わらない様子で向けられた背中に笑いかける。
「おかえり」
全く、この人は。リンクはくるっと振り返った。
「はい。……遅くなりました」