第四章-後編-



あいつが……魔王、ガノンドロフ。

「随分と面白いことを為されているようで」

リンクに釣られて、ラディスはガノンドロフの頭上に注目する。

「――ゼルダ姫」

声を上げる、というよりはぽつりと呟く形で。それほどにその光景があまりにも衝撃的で、だからこそラディス以外はただ目を開くばかりだった。

ゼルダは――シャンデリアの近く、ガノンドロフの頭上に仰向けの状態で宙に浮いており、それでいて落ちる気配はなかった。彼女の体には仄かに金色の光が灯り、そして彼女自身も苦しそうに顔を歪ませ、震えている。

「我が姫には美しいまま、居てもらわなくてな」


……まさか。


「落ち着いてください」

ファルコが構え、踏み出すとリンクはすかさず腕を横に払い、止めた。

「トライフォースがそう簡単に宿主の体を離れることはありません」
「だから見てろってのかよ!」
「彼の魔術を打ち破れるのは恐らく、同じくトライフォースを宿した者だけ」

リンクはおもむろに剣を抜き、踏み出す。

「ここは、俺に任せてください」

彼の考えとしては、自分がゼルダを拘束する魔術を打ち破るので、解放された隙に救出しろということだろう。それでも全員でかかった方がいいのだろうが……

「……分かった」

結果、全員がやられては元も子もないのだ。

子供だから不安だとか、そうは言ってられない。彼だって戦士、それでいて勇気のトライフォースを宿す勇者なのだ。その彼が、今、勇気を試されている。


――全てを失う、覚悟を胸に。
 
 
57/82ページ
スキ