第四章-前編-
気付けなかった。
こんなに近くにいたのに。それでいて何もできない、非力な自分がいる。……いや。
何をすればいいか、分からないんだ。
「……あの時」
クレシスはぽつりと口を開いた。
「俺は研究施設にいたよな」
自嘲するように。ふっと笑みを溢して。
「あの場所にいたこと。もし、それが俺の運命だとしたら……お前は見放したか?」
「そんなのっ!」
ラディスは咄嗟に声を上げる。
「同じように手を払われたって、俺は!」
俺は――
「……そうだよな」
クレシスはようやく振り返って。
「お前なら、そう言うと思ってた」
何処か嬉しそうに顔を綻ばせるクレシスに、ラディスは少しほっとした。
「……俺、認めたくねえんだよ」
クレシスは緩く拳を握って、顔を顰める。
「それが例え運命でも。誰かの勝手でその人の何もかもを奪うなんてことだけは」