第四章-前編-
「そこでの暮らしは確かに酷かった」
「なら、どうして……」
クレシスはふっと笑みを溢す。
「俺にとってはさ。外の世界こそ絶望そのもので、何もないそこに進んで飛び出す気にはなれなかったんだよ」
両親に売り渡された自分が、助けられたからといって元の生活に戻れるはずもない。
希望なんてなかった。
「……それで、ラディスは?」
フォックスが訊ねると、ここでもクレシスはくすっと笑ってから顔を向けた。
「なんて言ったと思う?」
――俺が、君の希望になる。
「えっ?」
「ほらな。そうなるだろ」
クレシスは瞼を閉じて思い返す。
――君がこの世界を真っ暗闇だって言うのなら、俺が光になる。いつか君が望んだ未来に辿り着けるように、傍にいるよ。
「だから、今は信じてくれ。……なんて」
かつての彼の台詞を口にしながら瞼をそっと開き、自分の手のひらを見つめる。
「……本当。格好つけやがって」