第四章-前編-
「ラディス」
その時、声をかけてきたのはフォックスである。雨合羽のフードを取って、一緒にやって来た兵士の男を手のひらで示す。
「彼、この地域一帯の警備を担当している部隊の副隊長だって」
そう紹介され、男が頭を下げるとラディスは遠慮がちに「ど、どうも」と返した。
「隊長は報告書の提出に出向いておりますので、代わりに私が」
「そうですか……その、敵襲は」
「我々が駆けつけた時には、もう……」
「……生き残った村人とかは」
そう訊ねると、男は静かに首を横に振った。ラディスはますます表情を曇らせて。
こんな小さな村で、何の前触れもなく悲劇が襲った。誰の声も届かず、見せしめのように村人は全滅……悲惨な結末だ。
――戦士という存在が如何に小さいか。
悔しさに顔を俯かせて拳を握るラディスの隣で、クレシスはただ、黙っていた。