エピローグ
一人の男がいた。
優しくて。誰かのためなら例えそれが無茶でも立ち向かっていけるような。
無鉄砲で馬鹿だったけど。
これから先も変わらず大好きな。
……そんなひと。
湾曲する木のアーチをくぐると見慣れた景色が迎えた。吹く風に髪を乱されながら構わず進み出るとこの場所に咲くものとまた異なる花の匂いやら線香の匂いやら。近付けば、墓石を囲うようにわちゃわちゃと。遠慮も何もありゃしない。
「……塩饅頭」
小さく息を吐いて。
「太るぞ、お前」
これだけあれば十分だろうと思い今回は拝むだけにした。手を合わせて瞼を伏せ数秒の後そっと開く。
「あなた」
不意に呼ばれて振り向いた。
「お前……安静にしとけって」
「今日は特別だもの」
そう言って。
胎内に宿した命を愛おしそうに。
「あと二ヶ月ですって」
そうか、とだけ返した。最も素っ気ないつもりはなく気恥ずかしかったのだ。
「次のお仕事は決まったの?」
妻が訊ねる。
「……まあな」