エピローグ



一陣の風が吹いた。ほんの少しだけその歩みが緩んだその時である。


――いってらっしゃい。


確かに。そんな声がはっきりと。

頭の中に響いて聞こえたというようないわゆる幻聴などとは違う。フォックスは歩みを止めると振り返ろうとして。

……そんなはず。

自分に呆れて向き直ろうとした。


「ファルコ?」

ふと目が合ったのはその人だった。

見れば立ち並び歩いていた全員が足を止めて顔を見合わせていたのだ。そして。

まさか、と。

フォックスは振り返る。


風が吹く。黄色の花弁が舞う。


そこに。


……そこにあの人はいなかった。


違う。今日だけじゃない。

もうずっと前から。


あの人は。


叫びたい声を押し殺して呑み込む。

今は。前へ進むために。


ありがとう。……ラディス・フォン。


「あーあ、腹減ったなぁ!」

子供たちがわざとらしく声を上げた。

「兄ちゃん今日の晩御飯はー?」
「はーい! 僕、カレーがいい!」
「そこはハヤシライスだろ」
「どっちも同じなんじゃ」
「ちがーうっ!」

溢れて止まないそれは拭わないままに。

「どうすんだよ兄ちゃん!」
「……はいはい」

大きく息を吸って答える。

「帰って、皆で作りましょうか!」
 
 
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