エピローグ
天空大都市レイアーゼは未来都市。ともなれば国民全員が誇りを持って清く正しく美しくこの時期の観光客にも恥じない振る舞いをしている──なんて。お高くとまってるはずもなく。実際に厳つい男二人組が及び腰の見るからに弱きそうな青年を路地裏に攫うのを目にしてしまったからには。
……ま。
こっちだって特殊防衛部隊やってるわけだし。
なるべくなら……穏便に。願わくば厳重注意だけで引いてくれたらいいんだけど──
駄菓子屋のアイスケースを離れて路地裏をひょいと覗き込んでみたところでルーティは目を丸くした。
「えっ」
なんて声に出るのも無理もない。
まさか、誰も居なかったなんて訳ではない。そこに確かに先程の厳つい男二人組は居たのだ。
地面に伸びている状態で。
「え……ええっ?」
見るからに悪いことをしようとしていた人物が相手では素直に心配もできない。かといってこのまま見て見ぬ振りなんて日陰とはいえこの季節じゃ御法度だし──ルーティは急ぎ駆け寄ると片方の膝を付きながら男の一人を揺すった。
「あのっ、大丈──」
殺気。
「ッ……!」
見られている。確実に。ルーティは無意識に臨戦態勢として頬に青の閃光を迸らせていた。尚も背中からぐさぐさと突き刺さる殺気基視線の正体を確かめるべく恐る恐るではなく一気に勢いよく振り返ると同時に構えれば──
「わっ」
ルーティは目を丸くする。
「お、かえり……」
そこに居たのは──あの少年だった。
「なるべく待たせないようにとは思ったんだが」
少年も同じように目を丸くしながら。
「……怒らせてしまったかな」
「え!? う、ううん!? 全然!?」
ルーティが慌てた様子で手を振り否定している間に少年はひょいとルーティが背にした光景を覗き込むとますます目を丸くしながら、
「これは……君が……?」
「い、いやこれはそのっ、違くてっ」
身振り手振りの落ち着かない仕草で全力で否定したところでルーティははたとこの厳つい男二人組に路地裏まで連れられてきたはずの青年の姿が見当たらないことに気付く。
「……?」
すれ違った様子もなければこの先は行き止まり──いや。正しくは例え運動神経に自信のある猫でも兎でもひとっ飛びでは越えられないであろう塀が立ちはだかっている。まさか二人を伏したのはあの青年だったのだろうか? だとしても一体何処に……?
「救急車……」
少年がぽつりと言うので我に返る。
「そ、そうだよね!」
仕方ない。ここは熱中症ということにして。
「ええっと……いち、いち、きゅう……」
端末を取り出せば声に出しながら正確に。
「……もしもし、救急です! 路地裏で倒れている人がいて──症状は多分、熱中症で──」