最終章



どうやら明言されていなかっただけできちんと制限時間というものは設けられていた様子。となればその五分が経つ前に捕まえるだけだと床を強く蹴り出せばリュカもそれに倣って駆け出した。

「あわっ!」

伸びた手を右へ左へ、時として身を屈めて器用に躱しながら気付けば玄関前。このまま外に出るものかと思いきやギリギリまで引き付けて方向転換──これにはルーティも止まり切れず、

「へゎぶっ!?」

顔面ダイブも二回目ともなれば額やら鼻やらがヒリヒリと痛い。こうしている間にも距離を取られそうなものだがそこは性格が祟ったのかリュカは付かず離れずといった距離でおろおろ。ルーティは痛みを堪えながら涙目に加えて膨れっ面で振り返ると「リュカぁっ!」と大人げなく声を上げて追跡を再開した。その勢いに小動物のように肩を跳ねて驚かれようが関係ない。

「くぅっ!」

階段を駆け登ったり降りたり──後少しが案外届かないむず痒い状況が続く中で遂にリュカが躓いた。転倒までに至らなかったがお陰で距離がぐんと縮んだことを良いことにルーティはお構いなしに目一杯に腕を伸ばす。振り向いたリュカの双眸にほんの一瞬だけ青白い光が灯ったが制約を思い出したのか固く目を瞑った。


……今度こそ!


「!?、」

掴んだのは──なんと一輪の向日葵だった。

まさかテレポートを使ったのかとリュカを見れば存外彼もきょとんとして両腕を構えた状態で固まってしまっている。何が起こったのかは分からないが兎にも角にも仕切り直しだ。ルーティが改めて手を伸ばすとリュカも硬直が解けたのか慌てて駆け出した。ああもう、少しだったのに!

でも、……今のは何だったんだ?
 
 
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