第八章



「、!」

──長く尾を引く遠吠えがこの距離で。

それは突然のことだった。いつの間にか高台の一番端に立ったアクアヴォルフが首を反らして空を仰ぎながら頭の奥にまで通るような神秘的な声を島全体に響かせていたのである。

狼といえば夜満月を見上げながら鳴くものだと思っていたので皆が皆呆気に取られた。大人のアクアヴォルフの背に乗った仔もまだ幼く甲高い声を懸命に上げている。暫く目を見張っていれば。

「、ルーティ!」
「おにぃ!」

ソニックとピチカが口々に。

「えっなになに」

ルーティはリュックサックを放って立ち上がる。

「……!」


目を疑うような光景だった。

アクアヴォルフが遠吠えを響かせるこの場所を中心に透明な波紋が打ち出されていく。決して害のないそれは緑の木々を島の全てを蒼く彩っていく。アクアヴォルフの遠吠えは彼らだけに留まらず西から東から響き渡りその都度波紋が広がって緑の景色はより蒼く──美しく。


「これが」

ルーティは瞳を揺らしながらぽつりと呟く。

「蒼の孤島……アクエス……!」


ああ。そうだったのか。

アクエスが蒼の孤島と称されるその理由は朝日が昇るほんの僅かな時間にある。朝日が昇るのに合わせてアクアヴォルフが特殊な音域の遠吠えを響かせると目にすることができるその光景のことをこの島の人たちは蒼の孤島と呼んでいたんだ!
 
 
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