第八章
「……!」
これでも彼女なりにこの場で咄嗟に出せる最高の跳躍というものだったのだ。恐らく。──アクアヴェアが咆哮すると心なしかその背を押されたような気がしたがそれで届くかどうかはまた別の話。着地の為に乗せた足の足下が不幸にも柔らかく崩れてしまった。そうなれば彼女の体は後方に傾いてしまい目的の場から遠退く訳で。
「ピチカ!」
こんな肝心な場面で。
届かないなんて。
「──!」
大きな影が手を伸ばしたルーティとソニックの二人の間をすり抜けた。それは既の所でピチカの首後ろの襟を咥えて落下を阻止してくれたらしく。ピチカは固く閉じていた瞼をそろそろと開いたが真下に広がる景色に青ざめた。そんな気も知る由もなくアクアヴォルフの仔は上を見上げて甲高い声で騒ぎ立てている。
「、え」
恐る恐る見上げて。ピチカも目を開いた。
「アクア……ヴォルフ……!?」
ようやく待ち侘びていた地面に足を付くことを許されるとピチカはルーティに駆け寄った。
「おにぃー!」
「ご、ごめんねピチカ」
「怖かったよぉー!」
概ね予想通りの反応に今回ばかりはよしよしと背中を摩り頭を撫でて抱き留める。そんな最中ピチカの腕の中から抜け出たアクアヴォルフの仔が鳴きながら駆けていった。辿り着いた先で優しく愛でるのは一回りも二回りも大きな大人のアクアヴォルフ。ルーティはピチカをそっと解放してそれぞれ顔を見合わせる。
「……親子かな」
そもそも子どもでさえ現物を目にするのは初めてだったのにまさか大人となるとここまで大きく成長するものだとは。天敵のアクアヴェアに負けず劣らず巨体でとても絶滅危惧種とは。
「あ」
大人のアクアヴォルフは仔を背に乗せるとそのまま歩き出した。けれど歩いていった先で意味深に振り返りじっと此方を見つめている。
「えっと」
「ついてこいってことなのかも」
「行ってみようぜ!」