第八章
とてもじゃないが不意を突いて脇を抜けるなど出来るはずもない──ルーティがそう言うとソニックもピチカも頷いた。アクアヴェアがもう一度吠え叫ぶのを合図に三人は駆け出す。幸いにも速さに自信があったので真っ直ぐ走るだけというのもありアクアヴェアとの距離はぐんぐんと開いた。
このまま撒ける──そう思ったが。勝利の女神は笑むより先に試練を与えてくれたようで。
「、!」
木々のアーチをようやく抜けたかと思えば断崖絶壁──いや。よく見てみれば道は二メートル程先にまだ続いている。恐らくだが元々あった岩肌の道が崩れてしまったのだろう──先頭のルーティが思わず立ち止まるのを目に釣られて走る速度を緩めたソニックはルーティの肩にぽんと軽く手を置いて助走を付けて飛び出した。
「……よし!」
届いた! ルーティも深く頷いて後ろをちらりと確認した後に思い切って飛び出す。今度も難なく着地したものの前後に体が揺れてしまいこれには慌ててソニックがルーティの腕を掴んだ。
「あ、ありがとう」
「気を付けろよ」
そして二人は元来た道を振り返る。
「ピチカ!」
目を凝らせば彼女の背後にはアクアヴェアが突進する勢いで迫ってきている。
「ふえっ!」
ピチカは思わず立ち止まった。小石や砂利が遥か底に落ちていくのを見て冷や汗をたらり。直ぐさま助走を付けて飛ぶべきだったのだろうが後ろに下がるだけの距離が……足りない。
「飛ぶんだ、ピチカ!」
ソニックが叫ぶ。そりゃ先に飛んだ貴方はいいだろうけど! ピチカは恨めしい気持ちに喉に突っ掛からせるもこの場は呑み込んだ。腕に抱いたアクアヴォルフの仔をまるでお守りのように力強く抱き締めて駆け出す。──そして。