第七章
ひゅー、と長く尾を引いた音に釣られて顔を上げると。
破裂音と共に大きな花が、夏の夜空に咲いた。続けて大小様々な花たちが咲き乱れ、華やかに彩る。わあっ、と誰もがそれに見惚れた。――夏の代名詞。
打ち上げ花火である。
「ほーらね。見やすいっしょ」
そう言った後でクレイジーは膝の上に頬杖をついて。
「人、いないと思ったんだけどね」
――成る程。彼らはこれを見るためにここまでやってきたのか。
ルーティは立ち上がると、使い終えた竹ひごを水の入ったバケツの中に放り、その場を離れた。きょろきょろと辺りを見回し、とある人物を探して。
「……奴ならそこにいるぞ」
マスターに言われて顔を向けると、確かにそこにいた。
「兄さんも情に厚くなったねぇ」
「そういうのじゃないさ」
ふぅん、とクレイジーは走りゆくルーティを見つめる。
「……大切な人との特別なひと時。誰でも重宝するものだろう?」
「何だよ、それ」
なんて返したが。マスターの視線を受けて、クレイジーは微かに頬を染めた。
――目的の人物は煙草を吹かせていた。
ルーティはさりげなく、その隣へ。特に交わす言葉もなく、打ち上がる花火の群れを見上げる。視線を返さなかったのは、きっと見惚れていたからなんだろう。
「……来年もまた、見れるかな」
ぽつりと呟く。
その願いは、この先何度も繰り返すことになるだろう。
来年も。再来年も。ここにいる、皆と一緒に。
「見れるだろ」
ルーティはぱっとウルフを見上げて。
「……うんっ!」
真夏のバカンスも、残すところ後三日。
いよいよ、ルーティはこの島に隠された最大級の謎に迫ることになる――