第七章
こほん、と咳払いをして。
「大体お化けなんて非現実的なもん、いるわけないじゃん」
「数ヶ月前、この世界を狂わせ悪夢に陥れたのは?」
「素敵なマジレスご馳走様。でもさ。このタイミングで出ると思う?」
クレイジーはやれやれと溜め息。
「お化けだって二人と一匹の散歩兼デートくらい空気を読んで――」
「うぅらめしやああっ!」
茂みの中から両手を振り上げて現れたのはお菊さん。
「ひぎゃー!?」
そう叫んで一目散に。何がデートだ、と兄を放ったらかしにして逃げ出すクレイジーの背中を、マスターは呆れた顔で見つめる。
「うぉえっ!?」
クレイジーは派手にずっこけてしまった。
小石に躓いたのではない。左手で何とか体を起こして振り返ると、ゾンビが這いつくばるようにして足を掴んでいる。にやりと笑えば容易く恐怖は募った。
「ぎゃああぁあっ!」
叫んで、蹴って、立ち上がる。
「なななななな何なんだよっ……どうなってんだよここ……!」
「ここはお化けの巣窟……」
再び駆け出そうとしたクレイジーの目の前に立ちはだかる――のっぺらぼう。
「ひ、」
「足を踏み入れたら……最期……」
「二度とは返しません……」
烏天狗に狼男。くすくすとお稲荷様が怪しく笑う。じりじり、じりじりと様々なお化けや妖怪が詰め寄ってくるのを、クレイジーは口をぱくぱくとさせながら後退して。だがしかしその体は不意に後ろから捕らえられた。
「……逝こう?」
妖怪、鉄鼠は口角を吊り上げて口を開く。
「僕たちと一緒に遊ぼうよ」