第七章
ふと、マルスは立ち止まり振り返った。
何となく視線を感じたのだ。だけど気のせいだろうか。それとも暗闇に紛れて見えないだけなのか、それらしい影は見当たらない。
「どうかしたのか」
「うーん……」
少し先まで歩いていたアイクはマルスの隣まで戻ってくると、持っていた懐中電灯で辺りを照らしだした。その時、木の後ろにさっと隠れる人影を見つけて。
「そこか。隠れてないで出てこい」
アイクは懐中電灯の明かりを向ける。
「……ふふ」
現れたのは黒のフードを頭からすっぽりと被った二人組の青年。それぞれが何やら小声で繰り返し呟き、薄い笑みを口元に浮かべている。……それよりも、だ。
その手に持っているのは――
「あはっ……私の可愛い王子様……一緒に気持ちいいことをしよう……?」
「何処まで行ったところで逃がしはしない……ずっと、一緒に……」
顔を上げた二人の青年がうっとりと目を細めて頬擦りをする。
銀の光沢がぎらつくのは。
誰かの鮮血が微かながら付着した、本物の――
ナイフ。
「ぎゃあああーッ!?」
そう。ユウとリオンが役を演じたのはストーカー。それも超重症のヤンデレを意識したものである。逃げ出したマルスを、リオンは駆け足で追いかけて。
「あははっ! 愛してるよ……愛してる愛してる愛して愛して」
「ポマードポマードポマードォォ!」
それは口裂け女である。
「……なんだ」
アイクは腕を組み、ユウをじっと見つめて。
「黒ずきん……」
「は?」