第七章
「はあ……はあ……」
……言わずともこの気持ち悪い息遣いでバレバレである。
「浴衣とは……こう、そそられるものがあるな……」
リオンは隣を並んで歩くユウにうっとりとした眼差しを向ける。
「――夏の蒸し暑さにより滲んだ汗が、しなやかなうなじを色めく……人混みに揉まれはだけた胸元から窺える、極上の肌面積。着付けられた浴衣が示す、腰から尻にかけたライン。……極め付けは浴衣の裾から覗く生足! 締められた帯を解き放った時、どのような聖域がそこに広がっているのか……私はもう、想像しただけで……」
はあ、と熱っぽい息を吐き出して、
「勃ちました」
「蚊に刺された痒さで死ね」
よくもまあこうも長々と語れたものだ。感心はしないが。
「刺されたんですか! 掻きましょうか!」
「お前は一度耳鼻科にでも行って耳を見てもらった方がいい」
この温度差。
「刺された痒みは蚊の毒によるものでな。毒は熱を加えることで」
「浴衣の裾を持ち上げるな。離せ」
「蚊に刺された痒みも中の奥のむずむずとした痒みも私に任せてくれ!」
「暑苦しいから寄るな」
正直、二人きりになるという時点で予想はしていた。こいつの扱いには慣れたようなものなので問題はない。が、少しだけ。
「ああっその目……暑さも吹き飛ぶ冷ややかな視線、それなのに体の芯から火照ってくる……罵られたい……殺される勢いで喉元に噛み付かれたい……っ」
せめて、手くらいは。
「……ユウ?」
急に手を繋いできたユウにリオンはきょとん。
「黙っていろ」
――少しは空気を読め。変態。