第五章
何だったら家まで送ろうかと提案する黒髪の男だったが、さすがにそこまでは許せないのか長髪の男がひと睨み。
結局、二人は名前を告げないまま立ち去ってしまい。助けてくれたのは、確かに嬉しいけど……ディディーとトゥーンはちらり、横目で揃ってピチカを捉える。
「かっこいい……」
まさか、一目惚れだけはやめてくれよ。
「お兄さんが悲しむぞー」
「あっ」
「ルーティ一筋じゃなかったのかよ」
「ぅ」
名前も口にしない見ず知らずの男がライバルなんて、それだけは絶対に御免だ。
ディディーとトゥーンが口々にそう告げると、ピチカはようやく諦める気になったのか小さく息を吐き出して。――とはいえ。
「濡れちゃったね。……どうしよう」
何かあった、とは言いづらいし。
「よしっ! じゃあ、川で溺れてた人を助けに行ったってことにしようぜ!」
「全員は不自然じゃね?」
トゥーンが首を傾げると、
「そうだなぁ……じゃ、ピチカとリュカは転けて水溜まりに突っ込んだってことで」
「えーっ!」
不服そうにピチカとリュカは声を上げる。
気楽だな。とはいえ、彼らは無事だったのだ。リンク達はそれぞれ顔を見合わせると、小さく笑みを溢し、その場を離れた。