第五章
「兄貴から離れろ」
男が告げるも、黒髪の男は未だ大柄の男の喉元に傘の先端を突き付けたまま。
「離れろっつってんだ!」
語気を強める男に、リュカは怯えて目尻に涙を浮かばせる。黒髪の男は傘から手を離した。ぱしゃ、と濡れた地面に落ちる。
パンッ
と、同時に乾いた音が鳴り響いた。
「ぁ」
決して誰か撃たれたのではない。
何故かリュカを捕らえていた男の手から、弾かれるようにして拳銃が宙を舞って。
「駄目だろ。武器なんか使っちゃ」
銃を構えて発砲したのは、なんと黒髪の男である。そして、男もリュカを解放した。
雨に濡れて、光る刃先。いつの間にか背後に回り込んでいた長髪の男が、首筋にナイフを宛がっていた。黒髪の男は笑って、
「俺達、そっちが本業なんだからさ」