第五章



思いの外、あっさり解放された。

ピチカは男が怯んだ隙に腕の中から抜け出すと、走り出して。――しかし。

「この餓鬼!」
「やッ」

男がすかさず、ピチカの髪を後ろから鷲掴みにした。その痛みにピチカは瞳に涙を浮かばせ、離してと男の腕を掴んで。

「調子こいてんじゃ」
「駄目駄目」

黒髪の男、紙袋を右腕に抱えつつ左手をぽんとその男の肩の上に置いて。

「女の子にはもっと優しくしなくちゃね」

にこり、笑って首後ろ目掛けて肘打ち。

不意討ちの痛みに意識さえ朦朧として、男はピチカを解放した後、その場に横たわった。ピチカは振り返ると頭を下げて、

「あっありがとう、ございますっ」

黒髪の男は左手をピチカの頭の上に乗せては、優しく髪を撫でながら笑いかける。
 
 
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