第五章



リュカはバナナを頬に添え、かくんと首を傾げて。それはリオンにとってとても魅力的な光景なのだが、恐らく試している。

「……ぁ」

頼む。冗談抜きで抑えてくれ。

本音を口にすれば尾行していたことがばれ、今までの苦労が水の泡になってしまう。

「お兄さん?」

不思議そうに見つめるリュカ。天然か、それとも確信犯か……リオンはごくりと息を呑み、にこりと営業スマイルで。

「甘くて美味しいですよね……!」

よくやった!

「うんっ」

天使のような可愛らしい笑みを浮かべて肩を竦めるリュカに、安堵。とはいえ、言いたいことを言えないというのは辛いのか、リオンの握った拳が震えている。

そういえばこいつ、普段自制とは無縁の生き方をしていたな。仕方ない、帰ったらちゃんと褒めてやろう……覚えていたら。
 
 
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