第五章



「……何ッスか?」

しまった。人違いだったか。

振り向いた男はリオンではなく、ユウはぱっと腕を離して。とはいえ、リオンを見失った直後に同じ藍色の雨合羽を着たこの男を見たのでは、何となく見逃せなくて。

「この辺で、……犬を見なかったか?」

さすがに色々と省きすぎたか。

「あー」

思いの外、通じた。男は手のひらの上にぽんと拳を置き、人差し指を立てて。

「知り合いッスか?」
「飼い主だ」

思わず、いつもの調子で返す。

引かれるかと思えば、その男は着ている雨合羽を指で摘まんではくいと引いて。

「これ、そいつのッスよ」

さすがのユウも、硬直。


今、何て言った?


「っ……どういう、ことだ」

待て。すぐに噛み付くのはよくない。

反射的に瞳が金色に煌めいたが、頭を抱えて感情を抑え込む。あくまで、冷静に。
 
 
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