第五章
言い知れない殺気に男は恐れを成したのかナイフを手放し、数歩後退したかと思えば、一目散に逃げ出してしまい。
「おっちゃん、忘れ物っ!」
桃色の髪の男、落としたナイフを手に取ると、あろうことか男目掛けて投げ付けて。
「ひっ!」
男が気付いてしゃがみ込むと、それはちょうど被っていたベレー帽を拐って。殺風景な頭が露になり、男はもう一度。
「ひいいい!」
と、こんな具合に声を上げて帽子とナイフを急いで手に取り、逃げていってしまい。
後に残った桃色の髪の男は「さいならー」とからかうように走り去る男の背中に呼びかけ、ディディーと笑い合って。
一方、ユウはまだ唖然としていた。
――まるで、ただからかってやっただけかのように済ませているが、あれは本気だ。
あの目は恐らく。過去に、人を。