第五章
「ちえ。まだ泳ぎ足んねーよ」
「あはは。ボクも」
窓の前に立って、つまらなそうに雨空を見つめるのはロイとピットである。
「いいんじゃない? 特にピットは、変な奴に目を付けられずに済んだことだし」
マルスの台詞に、先を歩いていたリンクはぴたりと立ち止まって。そちらには目を向けず、黙って耳だけを傾ける。
「そういやピット、変な奴に声かけられてたっけ。ほら、昨日の帰りに浜辺で」
ピットは小首を傾げながら、
「普通のおじさん、じゃなかった?」
ロイは苦笑を浮かべる。
「いやいや。あれは絶対、満足するまでヤって最後、ポイしちゃうタイプだから」
「この時期は多いからね」
マルスは窓の外を見つめながら。
「バカンスといえば、世間知らずの金持ちが来るものだと踏んでいる連中もいるくらいだから。油断してたら狙われるよ……」
最後、マルスはにこり。
「ピットみたいなのは特に、ね?」