第八章
「……ねえ、リム」
不意に呼びかけられ、リムは視線を下に落とす。ピチカは瞼を閉じたまま、
「お願いがあるの」
何だろう。リムは小首を傾げる。
「……なぁに?」
「子守唄」
ピチカはそっと瞼を開いて。
「リムの大好きな子守唄、歌って」
リムは目を開いた。
お母さんが小さい頃から歌って聞かせてくれた、私の大好きな子守唄。……でも。
あれは――
「お願い……」
彼女の願いを断るわけにはいかなかった。
だからといって、嫌々と歌うわけじゃない。例えどんな歌だったにせよ、リムは本当にあの子守唄が大好きだったのだ。
「お安い御用よ」
そう笑って、リムは瞼を閉じる。
歌おう。大好きな子守唄で、彼女に安らかな眠りを。ゆっくりと息を吸って、呼吸するように自然な形で、リムは歌う。
優しくて、温かくて。
誰もが笑顔になるような、心休まる子守唄で。おやすみなさい、ピチカ……