第八章



「えへへ……」

彼女だって声を上げて泣きたいはずだ。

それでも、ピチカはいつものように肩を竦め、笑って。リムは微笑すると、向かい側のベッドへ。縁に腰掛け、手招く。

「ピチカ。少し寝なさい」

素直に寄ってきたピチカにそう告げて、リムは膝を叩く。苦しい思いをたくさんしてきた彼女は、きっともうへとへとだ。

「……でも」

ピチカはスピカを振り返る。

「ピチカ」

リムは笑って。

「部隊のリーダーを勤めてる貴方のお兄さんよ? 貴方が寝て、起きたら彼も目を覚ましてるかもしれないじゃない」

本当は、そんな保証なんてないけれど。

「……うんっ」

信じてくれる人がいる。その為に、人は優しい嘘を吐く。ピチカはリムの言葉に頷いてベッドによじ登り、横たわる。

ピチカが自分の膝の上に頭を乗せると、リムは優しい手付きで髪を撫で始めて。
 
 
42/52ページ
スキ