第八章



次の瞬間、煙の中から飛び出してきたのはルーティだった。決して、憑依されたわけじゃない。ベンゼルを狙い定めた黒い瞳には、ちゃんと光が宿っている。

「面白い。二人目か」

が、やはりパートナーの彼を悪夢の中から助け出すことまでは敵わなかったか。

手負いの鼠に何が出来る。ベンゼルはほくそ笑み、タクトを払う。幾つかの音符が宙に浮いて現れ、ルーティを襲って。

「あッ……く、ぅ」

体力が全快していない状態では全てを躱すことは敵わず、所々を掠り。それでもベンゼルとの距離を詰め――そして。

「っ何」

地面に稲妻を放ち、バネにして高く飛び上がった。ベンゼルは目で追いかける。


「ウルフ!」


その時、ルーティが叫んだその名にはっと目を開くも、遅かった。間もなく、煙は晴れてベンゼルの対応が遅れる。
 
 
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