第八章



「ウルフ、逃げ」

ここにいたら、殺される。

身の危険を感じてルーティはウルフの腕を掴み、はっと目を開いた。刹那、心臓が大きく鼓動して頭の中に“声”が流れ込む。


自分を凌駕する為なら何だってやってきた。絶望を嘲り、希望を奪い去った。

その罪が今、この身で償えるというのなら過去も、未来も何も求めない。ただ一つ、叶うのなら約束してほしい。


自分の為に、何も犠牲にはしたくない――


「ウル、フ……?」

彼の声が、彼の想いが浸透して。

恐る恐るその名を呼ぶも、ウルフは小さく首を横に振る。ようやく体を起こし、立ち上がればルーティに背中を向けたまま。

「っ……逃げろ……」

ルーティは慌てて立ち上がる。

「嫌だ!」
「逃げろっつってんだろ」
「それじゃウルフが」
「平気に決まって」

遮るように、手を取って握った。

微かに震えるその手にルーティは顔を顰め、ウルフはふいと目を逸らす。
 
 
14/52ページ
スキ