第八章
「ウルフ、逃げ」
ここにいたら、殺される。
身の危険を感じてルーティはウルフの腕を掴み、はっと目を開いた。刹那、心臓が大きく鼓動して頭の中に“声”が流れ込む。
自分を凌駕する為なら何だってやってきた。絶望を嘲り、希望を奪い去った。
その罪が今、この身で償えるというのなら過去も、未来も何も求めない。ただ一つ、叶うのなら約束してほしい。
自分の為に、何も犠牲にはしたくない――
「ウル、フ……?」
彼の声が、彼の想いが浸透して。
恐る恐るその名を呼ぶも、ウルフは小さく首を横に振る。ようやく体を起こし、立ち上がればルーティに背中を向けたまま。
「っ……逃げろ……」
ルーティは慌てて立ち上がる。
「嫌だ!」
「逃げろっつってんだろ」
「それじゃウルフが」
「平気に決まって」
遮るように、手を取って握った。
微かに震えるその手にルーティは顔を顰め、ウルフはふいと目を逸らす。