第一章



ベッドの枕元に置かれていたバイオリンのケースを手に取り、その中から焦げ茶色のバイオリンを取り出す。

楽譜は閉じたバイオリンのケースの上に広げて置いて、早速バイオリンを構える。

「イ長調……か」

そう呟き、集中する為に瞼を閉じる。

弦の上にそっと弓を重ねて、ゆっくりと引く。低めの音色が部屋に響いて、それを合図に、いよいよ音楽は奏でられる。

「ん……」

耳に届く多彩な音符は、体の中で弾けて温もりを与えた。染み渡っていく繊細なメロディ。美しい旋律。ダークトゥーンはうっとりと薄目を開き、夢中になって奏でる。

しかし、これはあくまでも前奏。

いずれ音符が切れて音が止んでしまうことを思うと、ダークトゥーンは酷く惜しんだ。もう少しだけ……そう、もう少しだけ。


――この音を、奏でていたいのだろう?
 
 
15/49ページ
スキ