第三章
「っ、あ」
一瞬躓きそうになり、声を洩らし。
何とか体勢を整えて走り続けるピチカだったが、不意に金縛りに遭ったかのように体が動かなくなってしまい。
直後、耳に届く足音。それは確実に自分の所へ向かっていて。振り向くことも出来ず、恐怖だけが静かに募っていく。
「やっ」
次の瞬間、両手を何者かによって捕らえられて。続いて両足首が捕らえられ、ピチカは募る恐怖に瞳を震わせる。
「ピ……チ……カ……」
囁くようなはっきりとしない声が、確かにその名をぽつりと呼んで。
「ピ……チカ……」
その声は徐々にはっきりしたものに変わっていき。ピチカはゆっくり首を横に振り。
「い……」
「ピチカ……」
「い、や……っ嫌……」
「ピチカ」
――やめて。やめてやめてやめて!